有機元素化学研究室
Institute for Chemical Research, Kyoto University

アルミニウムを含む新規な機能性分子

 地殻に豊富に存在し遷移金属と比較して環境調和性も高いアルミニウムは、電子欠損性元素でありLewis酸としての性質を持つことから、アルミニウムを鍵元素としたユニークな構造や機能を発現する化合物群の創製が期待される。しかしそのような化合物は、アルミニウムの電子欠損性に起因する高い反応性のために、不安定で取り扱いが困難である。当研究室では、かさ高い置換基の立体保護を駆使して、様々な含アルミニウム化合物の特徴的な構造や反応性の解明を行なっている。

バレレン型ジアルマン “ジアルメン等価体”

 アルミニウム間に二重結合を有する「ジアルメン」は、アルミニウムの空のp軌道同士の相互作用により、低いLUMOを発現する。1,2-ジブロモジアルマンを還元させることにより、ジアルメンの発生を検討したところ、ジアルメンではなくベンゼンが付加した「バレレン型ジアルマン」が得られた。このバレレン型ジアルマンは、溶液中でベンゼンを放出し、ジアルメンを発生する「ジアルメン等価体」として働くことを明らかにした。発生したジアルメンは非常に反応性が高く、水素分子を温和な条件で活性化することが分かった。

1-アルマシクロペンタ-2,4-ジエン “アルモール”

 環状4π電子系化合物であるボロールは、反芳香族性への興味に加え、高い電子受容性やルイス酸性を示すことから機能性分子の観点からも盛んに研究されている。一方、ボロールの高周期類縁体であるアルモールに関しては、合成例がほとんど無く物性や反応性は明らかにされていなかった。我々は、かさ高い2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基 (Mes*基) を導入することで安定なアルモールの合成に成功し、さらにリチウム還元することでアルモール環が二電子還元されたジアニオンが生成することを見出した。

 さらに、アルミニウム上にブロモ基を導入した
1-ブロモアルモール
の合成・単離に成功した。これらのハロゲン置換アルモールは、結晶中ではブタジエン部位の炭素原子が2つのアルミニウム原子間を架橋した二量体構造をとっていたが、溶液中では単量体との解離平衡が存在することが、温度可変NMRスペクトルおよびルイス塩基との錯形成から示唆された。1-ブロモアルモールとアルキン類との反応を行ったところ、Al-C結合への二分子のアルキンの挿入が進行し、含アルミニウム9員環化合物である1-alumacyclonona-2,4,6,8-tetraene (1-brumoalumonin)誘導体が生成した。これは初めての13族元素を含むシクロノナテトラエンの例である。

アルマニル-鉄錯体

 アルミニウムと遷移金属とが直接結合を有する錯体は、アルミニウムの空軌道に起因する高いルイス酸性とアルミニウムと比較してソフトな酸である遷移金属との協奏効果によって、新奇な構造や性質を発現することが予想される。しかし、そのような錯体はアルミニウムにルイス塩基が配位したものがほとんどであり、特に、アルミニウム上にハロゲン置換基のような官能基を有し、かつルイス塩基配位のない錯体「ハロアルマニル錯体」は知られていなかった。我々はかさ高いTbb置換基を導入することで安定な
ブロモアルマニル鉄錯体
を合成・単離することに成功した。この錯体はTHF溶液状態においても、THFの配位はなく、アルミニウム部分がかさ高い置換基によって保護されていることが分かった。また、同じ鉄部分を有するホウ素・ガリウム類縁体と比較してこの錯体のアルミニウム部分が鉄に対して最も大きなσ供与能を有することが分かった。さらに、鉄からアルミニウムへのπ逆供与は弱く、ブロモ基からアルミニウムへのπ供与が錯体の安定化に貢献していることを明らかにした。