有機元素化学研究室
Institute for Chemical Research, Kyoto University

新規な含高周期典型元素d-π電子系化合物

14族元素d-π電子系の構築

 遷移金属同士を有機π電子系で架橋した「d-π電子系化合物」は、新しい有機機能性材料として期待されるのみならず、混合原子価状態のモデルとして基礎化学的な観点からも注目されている化合物群である。π電子系の基本骨格であるエチレンのケイ素類縁体であるジシレン(R
2
Si=SiR
2
)は、速度論的安定化の手法によって安定なジシレンが数多く合成され、特にごく最近では、新規物性の発現を期待したジシレン部位が組み込まれた拡張π電子共役系化合物の合成が報告されている。
 有機π電子ユニットの新展開としてこれまでに無い高周期典型元素π電子系で遷移金属d電子系を架橋した
「含高周期元素d-π電子系化合物」
を合成・単離し、それらの性質の解明し、高周期典型元素π電子系の電子輸送能の評価と特異なd-π電子系の機能解明という観点で基本的な概念を確立することを目的として研究を行っている。

安定な 1,2-ビス(メタロセニル)ジシレン

 立体保護基としてTip基を有するメタロセニルジクロロシランに対し、THF中–78 ºCでリチウムナフタレニドを作用させたところ、還元的カップリング反応が進行し対応する 1,2-ビス(メタロセニル)ジシレンを得ることに成功した。これらの
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Si NMR スペクトルでは、sp2ケイ素原子に特徴的な低磁場領域である70 ppm付近でシグナルが観測された。またSi-Si間距離はいずれも過去に報告されている結合長の範囲内であり、これらの結果から十分なSi=Siの二重結合性が支持された。また、ジシレンの電気化学特性をサイクリックボルタンメトリーにより評価し、還元側に二段階、酸化側に二段階の合計四段階の可逆な酸化還元波を与え、安定な多段階酸化還元系であることが示された。

ゲルミレノイド

 かさ高いフェロセニル基(Fc*基)に対して、ジクロロゲルミレンジオキサン錯体を作用させたところ、期待したビスフェロセニルジクロロジゲルメン〔Fc*(Cl)Ge=Ge(Cl)Fc*〕ではなく、生成物からLiClが脱離していない
クロロゲルミレノイド
〔Fc*GeCl
2
Li〕が単離された。この化合物は溶媒の極性や反応条件に応じて、
ゲルミレノイド
および二価化学種である
クロロゲルミレン
のそれぞれの性質を示す特異な化合物であった。