高周期典型元素不飽和化合物の化学:新規物性・機能の探求

研究概要

gakujutu.001.tiff画像クリックで拡大 最近、有機エレクトロニクスデバイスが注目され、中でも、ポリアセン類、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)などが精力的に研究されている。また、アゾ化合物と呼ばれる有機化合物は、染料や光応答性物質として利用されている。これらは炭素・酸素・窒素といった第二周期元素のみから構成され、化合物中にある炭素−炭素あるいは窒素−窒素の二重結合(不飽和結合)が重要な役割を果たしている。

 一方、周期表上において縦に並ぶ元素は性質が似ている(周期律)、と考えられていることから、炭素と同族の14族元素においてその高周期(周期表において下)に位置するケイ素については、炭素化合物とケイ素化合物の類似点あるいは相違点について大いに興味が持たれ精力的に研究が行われている。炭素化合物とケイ素化合物の比較において、一番大きな相違点は、「ケイ素の二重結合化合物は安定な化合物として存在しない」という点である。炭素の二重結合化合物が有機エレクトロデバイスとして活用できる物性を有していることを考えると、ケイ素の二重結合化合物を安定な化合物として合成できれば、基礎化学的に重要であるだけではなく、従来の炭素化合物とはまた違う、ユニークな性質・物性を持つ可能性が期待できる。

 本来不安定な化合物に、かさ高い置換基を導入して中心部を立体的に保護することで安定化する「速度論的安定化」という方法が最近確立しつつある。この分野のさきがけとしては、1981年に、ケイ素の二重結合化合物である「ジシレン(Si=Si)」(R.West, 米国)が、周期表で窒素の下に位置するリンの二重結合化合物である「ジホスフェン(P=P)」(吉藤, 日本)が、初めて安定な化合物として合成・単離され、注目を集めた。以後、世界的に本研究分野は発展し、様々な高周期元素を含む不飽和結合化合物が合成・単離され、「適切な立体保護基を用いれば、含高周期元素不飽和化合物を安定な化合物として手に取ることができる」ことが実証された。

 これまでの研究から、含高周期元素不飽和化合物は、単分子でありながらまるでナノスケール分子のような性質を有することが実験的および理論的な側面から解明されている。つまり、従来の有機物は高分子や巨大分子としてさまざまな物性発現が見られるものが多いが、高周期元素不飽和化合物の場合には、化学的に扱いやすい単分子であっても、従来の高分子に匹敵する、あるいはそれ以上の特異な物性を示す可能性があると考えられている。これまでは、その合成・単離だけを目的として高周期元素の不飽和結合化合物の化学が発展してきたが、今、未知なる物性・機能の宝庫とも言える高周期元素不飽和結合の化学を、物性・機能化学的要素を主眼として新たに展開することが国内外で強く切望されている。本研究課題はその要望に応えるものであり、元素特性と物性の相関に関する系統的研究に基づいた新規な含高周期元素不飽和結合機能性物質の探求を目的とし、新たな物性・機能化学を展開する。
 具体的には、炭素の同族高周期元素であるケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、あるいは窒素の同族高周期元素である、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、等の不飽和結合(二重結合、三重結合)を従来の機能性有機化合物に組み込んだ新規化合物を合成・単離し、その基本的な性質の解明に加え、光物性、電気物性の解明を行う。その中で、それぞれの高周期元素特有の性質を理解し、これまでの有機化合物には無い元素特性を活かした全く新しい機能や物性の発現を探求する。

① 含高周期元素不飽和結合をπ電子系に組み込んだ、新規な拡張π電子系分子の設計・合成およびその性質とπ電子相互作用の解明
② 物性の解明、新規物性発現の探求
③ 元素特性と物性の相関に関する系統的研究に基づく、元素特性の解明